大判例

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大阪高等裁判所 昭和40年(う)2183号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕原判決挙示の関係証拠によれば、本件事故発生にいたるまでの経緯として、本件事故当日樋口繁は本件機関車を運転して多賀駅構内で貨車の入換作業等に従事していたが、午後五時四〇分ころ作業を終了し、本件機関車を同駅構内の新線三番上の通称土田踏切の東約六メートルのところに留置したうえ同車から立ち去り、午後五時五九分多賀駅発の客電車で同駅を出た、他方被告人土田は当日午後五時から小林善太郎班長の下で他の日通人夫と共に同駅構内新線三番の上屋ホームでトラックで運ばれてきたセメントを貨車に積み込む作業をしていたが、日通人夫としてはセメントの積み込みを完了した貨車はその儘留置しておくと次の貨車への積み込みの妨げとなるので、積み込みを完了した貨車は二両位を連結して上屋ホームの西方すなわち前記機関車の留置してある方に押し流す作業を行なつていた。当日午後七時ごろ貨車二両の積み込みが終つたので、日通人夫土田定男は同桂久三らと共に右貨車を連結したうえ、西の方に押し流し、貨車が動き出してから土田定男が独りで前の貸車の右前方にあるデッキに乗つて前記のように留置中の機関車に右貨車を連絡した。そして午後八時少し前ころ次の貨車二両の積み込みが完了したので被告人土田は西村由春に手伝つてもらつて右貨車二両を連結したうえ二人でこれを西の方に押し流し、途中から被告人独りになつて後方の貨車の左後部のデッキに乗つて進み、前記のごとく、上屋ホームを出てから約二〇メートル位でブレーキを手でおろし同ホームから四〇メートル位進んだところ突然「ガチャン」と音がして流してきた貨車の前部がすでに土田定男が流し本件機関車に連結してあつた貨車にぶつかつたので、被告人はブレーキを右足で踏んだがまだ完全に停止したように思われなかつたので、ブレーキに両足を乗せて強く踏み込んだところ貨車が完全に停止したので貨車から降りたが、前方の貨車等の状況を確認しないまま上屋ホームに引き返した。ところが、本件機関車およびこれに連結してあつた貨車二台は右衝撃によつて転動を始め側線から本線に出て高宮駅を通過し逸走中、折から彦根口駅を出発して高宮駅に向つて進行していた第二五列車と正面衝突し、よつて右列車の乗客多数に傷害を負わせ、うち一名を死亡するに至らしたことが認められる。そこで、すすんで、セメントを貨車に積み込む作業をしている人夫が、すでに積み込みを完了した貨車を次の作業の必要上これを西方に押し流す際に如何なる業務上の注意義務があるかについて検討するに、まず、押し流した貨車を留置してある電気機関車に連結することは、原審証人鋒山仁一郎の証言(四回公判)によつて明らかなように、右連結は入換作業に属し、近江鉄道側において行なうべき作業であるから、連結器が偶々開いた状態になつておつたため連結が行なわれた場合は後記接触の場合に準じて考えるべきであるが、ことさらに連結をすることは避けるべきであり、つぎに押し流した貨車を電気機関車に接触させることは、ことさらに接触させなければならないような必要性は何等認められず、原審証人森田治男の証言(七回公判)にもあるようにこれを避けることが望ましいのであるが、上屋ホームと留置機関車との距離、貨車の長さ、夜勤作業で積み込まれる貨車の台数から考えると、積み込み作業の必要上接触の生ずることが或る程度避け得ない面のあることは陌間弥一の司法巡査に対する昭和三五年八月二八日付供述調書(記録八九〇丁)、被告人土田の検察官に対する供述調書(記録一六三一丁)によつても窺われ、これを絶対に禁止することは実際的でないと思われる。そこで、さらに押し流した貨車を留置してある電気機関車に接触させる場合に如何に処置すべきかについて検討するに、前記作業現場付近の線路の勾配として、山川庄太郎の司法巡査に対する供述調書(記録一四一丁)、司法警察員作成の昭和三五年九月七日付捜査復命書(記録五七五丁)、細井三郎作成の鑑定書(記録九五〇丁)によれば、新線三番の通称土田踏切からその西方本線ポイントまでの勾配は千分の五、同踏切から東方約一二〇メートルまでの勾配は千分の4.1、前記本線ポイントから高宮駅の方に向つての勾配は千分の七でいずれも東高西低となつていることが認められ、被告人の司法警察員に対する供述調書(記録一六一八丁)、原審昭和三七年一月一八日付検証調書中被告人の指示説明部分(記録六八三丁裏)によれば、被告人をはじめ人夫等も右勾配の具体的な数値の点は別として、勾配の存在すること、側線の勾配より本線ポイントから高宮駅方面に向けての勾配の方がより大であることを知つていたことが窺われ、押し流す貨車の重量について、北川義三の司法警察員に対する昭和三五年八月二七日付供述調書(記録一〇四丁)、前掲細井三郎作成の鑑定書、川島泰太郎作成の鑑定書によれば右貨車の荷重は一五トン、自重は約九トンであることが認められ、被告人をはじめ人夫等も右荷重が一五トンであることおよび自重が相当の重量であることを知つていたことは言うまでもないところである。したがつて前記のような状況の下では押し流した貨車の電気機関車あるいは貨車えの接触による衝撃如何によつては、右機関車あるいは貨車が流出することが起りうることは十分に予測されるところであるから、右流出によつて生ずる危険を防止するため、接触に際しては前方の電気機関車あるいは貨車との距離に留意し、押し流した貨車が右機関車あるいは貨車に接触する際の衝撃により前車を発進させることがないように徐々に接近させてこれを行なうと共に、接触の後には相手の機関車あるいは貨車が流出しないかどうかを確認し、流出を認めた場合にはこれによつて生ずる危険を防止するため適切な措置を講すべき業務上の注意義務があるものと解するのが相当である。

(杉田亮造 矢島好信 松井薫)

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